中国商標法が2026年6月に改正され、2027年1月1日に施行されます。制度は「登録重視」から「使用義務の強化」へと軸足を移します。本稿では、インターネット使用の明文化、悪意出願規制の強化、不使用商標の職権取消の導入など、企業の知財担当者が把握しておくべき8つのポイントを整理します。1. 商標法改正の背景今回の改正は、「登録重視」から「使用義務の強化」へと制度の軸足を移すことが大きな方向性です。現行の商標法(2019年版)は8章73条でしたが、新商標法では9章87条へ拡大されました。商標を登録するだけでなく、適切に使用されていることを重視する制度へ見直されたことが今回の改正の特徴です。2. 押さえておきたい8つの改正ポイントまずは改正内容を一覧で確認しましょう。改正項目主な内容根拠条文インターネット上の商標使用法律上の「商標の使用」として明文化第2条馳名商標保護未登録でも保護範囲を拡大第21条悪意出願対策判断基準を明確化し罰則を新設第19条第54条誤認を招く商標使用罰則を新設第56条不使用商標職権取消制度を導入第57条異議申立期間の短縮異議申立期間を3ヶ月→2ヶ月に短縮第36条損害賠償の算定順位侵害者の利益を第一順位に格上げ第77条海外進出支援越境的な馳名商標確認制度を新設第69条① インターネット上の使用も「商標の使用」に含まれることを明確化(第2条)インターネット上での商標使用が、法律上の「商標の使用」であることが明文化されました。新商標法第2条では、「商標の使用」にインターネットなどの情報ネットワークを通じた使用行為が含まれることが明記されました。これは、商標不使用取消請求や商標権侵害訴訟における従来の実務運用を法律上明確にしたものです。② 未登録の馳名商標に対する保護範囲を拡大(第21条)中国で登録されていない場合でも、馳名商標であれば一定の場合には保護を受けられるようになりました。馳名商標とは、中国で広く知られた著名な商標をいいます。新商標法第21条では、中国で登録されているかどうかを問わず、馳名商標に該当する場合には、同一・類似しない商品・役務分野での不正な先取り登録に対しても権利を主張できるようになりました。(第21条の条文自体は「商品」と規定していますが、第2条により、商品商標に関する規定は役務商標にも準用されます。したがって役務(サービス)も保護の対象に含まれます。)③ 悪意出願・悪意訴訟への対応を強化(第19条・第54条)悪意出願や悪意訴訟への規制が強化され、行政処分の対象も拡大しました。悪意出願とは、他人の商標を先取りする目的や、自ら使用する意思がない大量出願などを指します。新商標法第19条では、「使用を目的としない」悪意出願の判断基準を、「正常な事業運営上の需要を明らかに超える」という客観的な基準へ改めました。また、新商標法第54条では、代表的な悪意出願行為に対して警告および最大10万元の罰金を科す規定が新設されました。④ 誤認を招く商標使用への罰則を新設(第56条)消費者に誤認を与える商標使用に対して、新たな罰則が設けられました。新商標法第56条では、公衆に誤認を生じさせる方法で登録商標を使用した場合、是正命令に加えて次の罰則が適用されます。なお「違法経営額」とは、違反行為に関わる売上高等の金額をいいます。条件罰則違法経営額5万元以上最大5倍の罰金違法経営額5万元未満(違法経営額がない場合を含む)最大25万元の罰金⑤ 不使用商標を職権で取り消せる制度を新設(第57条)一定期間使用されていない商標は、第三者からの不使用取消の請求を待たずに、行政機関が職権で取り消せるようになります。新商標法第57条では、正当な理由なく継続して3年間使用されていない商標について、国家知識産権局(CNIPA。商標法上の「国務院商標管理部門」に相当し、中国の商標登録・管理を所管する行政機関)が職権で取り消せる権限が新たに付与されました。防御的登録(第三者による取得を防ぐ目的で、実際の使用予定がないまま登録する商標)については、対象となる可能性があるため、確認しておくことが重要です。⑥ 異議申立期間を短縮(第36条)予備的査定公告(出願が審査を通過し、異議申立のために公告される段階)された商標に対する異議申立期間が、現行の3ヶ月から2ヶ月へ短縮されました。商標登録までの期間が短縮され登録効率が高まる一方、他社商標のウォッチングと異議申立準備の期間が短くなります。監視体制と社内フローの見直しが実務上重要になります。⑦ 損害賠償の算定順位を見直し(第77条)侵害による損害賠償額の算定において、「侵害者が侵害により得た利益」が、「権利者の実際の損失」と並ぶ第一順位の算定方式に引き上げられました。これにより権利者は算定方式をより柔軟に選択でき、権利行使の実効性が高まります。⑧ 中国企業の海外進出を支援(越境的な馳名商標確認)(第69条)海外での商標登録出願の審査や商標事件の処理において、その商標が中国国内で関連公衆に広く知られていることを証明する必要がある場合、当事者の請求に応じて国家知識産権局(CNIPA)が馳名状況を確認できる制度が新設されました。中国企業の海外での権利保護を後押しするもので、国内での保護から越境的な保護へと踏み込んだ点が特徴です。3. 施行日と実務上の留意点2027年1月1日の施行までに、企業は保有商標の見直しを進めることが重要です。特に確認したいポイントは次のとおりです。インターネット上の使用実績を保存する防御的登録を見直す中国の商標ポートフォリオを再確認する第三者商標のウォッチング体制を強化・見直す(異議申立期間が3ヶ月→2ヶ月に短縮されるため、監視の頻度を上げ、異議申立の判断・準備を早める)4. まとめ今回の改正では、商標制度が「登録」から「使用」をより重視する方向へ見直されました。企業が対応すべきポイントは次の3つです。商標の使用実績を記録・管理する防御的登録を見直す中国での商標戦略を再確認する2027年1月1日の施行に向けて、保有商標の棚卸しや使用状況の確認を早めに進めることが望まれます。■ 出典LINDA LIU & PARTNERS「中華人民共和国商標法」、https://www.lindapatent.com/ipnews-sokuho-trademarklaw-kaisei-jp.pdf、(2026年7月3日参照)。LINDA LIU & PARTNERS「新『商標法』における主要な改正点のまとめ」、https://www.lindapatent.com/ipnews-sokuho-trademarklaw-kaiseimatome-jp.pdf、(2026年7月3日参照)。国家知識産権局(CNIPA)「中華人民共和国商標法(2026年修訂)」(原文)、https://www.cnipa.gov.cn/art/2026/6/26/art_3686_206940.html、(2026年7月10日参照)。 お問い合わせこちら