2022年以降のロシア撤退ラッシュから、今年で3年以上が経過しました。多くの企業が事業の一時停止を余儀なくされた今、静かに迫る「商標不使用取消」の波は、もはや対岸の火事ではありません。当社では、この問題を経営リスクとして早期に認識し、手を打つことが不可欠だと考えています。1. 深刻化する商標不使用取消のリスク2022年以降、ウクライナ情勢と対ロシア経済制裁を受け、多くのグローバルブランドがロシア市場での事業を停止または制限しています。しかし、ロシア民法典第1486条では、商標が継続して3年間使用されていない場合、利害関係人が取消訴訟を提起できると定められています。撤退したロシア国外の有名ブランドと類似する商標をロシア国内の企業が登録しようとし、既存の商標を排除するためにこの不使用取消を仕掛けるケースが急増しています。実際に、不使用取消訴訟件数は2023年の442件から2024年には543件へと22.9%増加しています。多くの企業が撤退・休止を表明してから3年以上経過しています。また、2022年に登録された商標については、登録日から3年が経過したことになるため、不使用取消訴訟の対象となるリスクがあります。補足:ロシアにおいて、不使用取消審判請求は日本のような特許庁への審判請求とは異なり、裁判所(知的財産権裁判所)への訴訟提起となります。なお、「利害関係人」とは単なる第三者ではなく、当該商標と同一・類似の標章について自己の事業上の利益を有する者を指し、その利害関係性は原告側で立証する必要があります。【当社の見解】経済制裁を理由とする事業撤退が、不使用取消審判における「正当な理由」(ロシア民法1486条)として認められるかは不透明であり、ロシア当局も撤退企業の商標を保護するための明確な救済措置を設けていません。権利者は制裁という外的要因を理由に取消を免れることが難しい状況であり、早急な対応が求められます。2. 再出願(Refiling)の有効性と注意点一部の権利者は、取消を免れるために同一商標を「再出願(Refiling)」し、不使用期間を実質的にリセットする手法を採用しています。一定の有効性が認められる手法ですが、以下の点に十分ご留意ください。1. 取消手続開始後の再出願は「権利濫用」と判断されるリスク不使用取消手続が開始された後に再出願を行った場合、ロシアの裁判実務上「権利の濫用」とみなされる可能性があります。したがって、再出願は不使用取消請求を受ける前に行うことを強くお勧めします。取消手続の開始前であれば、防衛手段としての有効性が高まります。2. 再出願前の先行類似商標調査の重要性 再出願に先立ち、類似する先行商標の調査を必ず実施することをお勧めします。撤退期間中に第三者の類似商標が新たに出願されているケースもあり、事前調査を行わずに再出願した場合、拒絶を受けるリスクが高まります。登録可能性を事前に確認しておくことが、再出願を成功させる鍵となります。3. 同一人による重複登録の拒絶リスク(いわゆる「精神拒絶」) ロシアでは、同一人が同一の商標について、既存の登録または出願と同一の指定商品・役務を重複して出願した場合、「同一人による重複登録の拒絶」が適用される可能性があります。再出願を行う際には、このリスクを回避するための工夫(指定商品・役務の調整等)を検討する必要があります。3. 戦略的な和解交渉の有効性ロシアでは、不使用取消訴訟提起前に原告側にプレコートレター(事前通知書)を送付する義務があります。これを機に、当該第三者との和解交渉(Settlement Negotiations)を行うことは、最も現実的な解決策の一つと考えられます。手法内容メリット共存合意(Coexistence Agreement)第三者による使用を一定の条件で認める代わりに、自社の権利も維持する権利の完全喪失を回避できるライセンス契約(License Agreement)一定の対価を得て使用権を許諾し、所有権は維持したまま将来的な市場復帰を見据えた管理体制を構築する対価を得つつ将来の市場復帰パスを保持できるこれにより、裁判で権利を完全に失う最悪の事態(Total Loss)を回避し、将来的な市場復帰への道筋を残すことが可能となります。交渉の余地がある間に専門家へご相談いただくことが、最善の結果につながります。4. 当社による実務サポートのご案内ロシア市場における商標の維持は、単なる法的手続きではなく、地政学的なリスクを考慮した高度な経営判断が求められます。当社では、最新のロシア国内判例や当局の動向を網羅した専門チームが、貴社のブランドポートフォリオを守るための最適なオプション(権利維持・再出願・和解交渉等)をご提案いたします。現在、ロシアでの権利維持に懸念をお持ちの企業様は、ぜひお早めに当社までご相談ください。貴社の知的財産という重要な資産を守るため、全力でサポートいたします。まとめ:実務上の対応チェックリスト自社商標の使用状況を直ちに確認し、3年以上未使用の案件をリストアップする不使用取消訴訟を提起される前に、再出願の検討を開始する(早期着手が重要)再出願の前には必ず先行類似商標の調査を実施し、登録可能性を事前に把握する再出願の際には、精神拒絶の回避方法を検討する取消訴訟を提起された場合は、和解交渉(共存合意・ライセンス契約)の可能性を検討する権利維持・市場復帰の方針を早急に決定し、専門家に相談する出典・参考情報・B1 Analytics — Non-use cancellation of a trademark: risks for foreign rights holders start to materialize (2025年3月)https://b1.ru/en/insights/law-messenger/trademark-cancellation-25-march-2025/・Legalink — 3 Years Away From Russian Market: IP Law Perspectivehttps://www.legalink.net/en/publications/newsletters/3-years-away-from-russian-market-ip-law-perspective/6439/・Gorodissky — Back up Your Brand: Dealing with New Threats for Trademarks in Russiahttps://www.gorodissky.com/publications/newsletters/dealing-with-new-threats-for-trademarks-in-russia/・INTA — The Status of Intellectual Property in Russia and Ukrainehttps://www.inta.org/resources/the-status-of-intellectual-property-in-russia-and-ukraine/・Papula-Nevinpat —Trademark trends 2024: Navigating growth, strategy, and emerging challenges in Russiahttps://papula-nevinpat.com/news/trademark-trends-2024-navigating-growth-strategy-and-emerging-challenges-in-russia/・Patent & Law Firm YUS — https://yus.legal/en/※ 本コラムは一般的な情報提供を目的としたものであり、法的アドバイスを構成するものではありません。個別案件については当社にお問い合わせください。 お問い合わせこちら