中国経済の中核を担う「中央企業(国有企業)」が、ブランド戦略を劇的に転換させています。これまでのような単なる「知名度向上」から、グローバル市場を見据えた「厳格な資産管理と防衛」へとフェーズが移行しているのです。本記事では、北京で開催された「2025中国ブランドフォーラム」(10月29日)および「第8回中国企業フォーラム(11月3₋4日)」という2つの重要な国家級会議の内容と、中国の経営コンサルティング大手「正略諮詢(Adfaith Consulting)」による分析レポートをもとに、中国企業の最新ブランド戦略を解説します。特に、2026年4月の「新gTLD(新ジェネリックトップレベルドメイン)」申請に関する動きは、日本企業にとっても見逃せないリスクとチャンスを含んでいます。出典:正略咨询品牌研究院. 从“国字号”品牌论坛看中央企业品牌工作:中央企业需要建立全球化的品牌资产保护体系[EB/OL]. 正略咨询微信公众号, 2025-11-19.https://mp.weixin.qq.com/s/IufERP5FCaXqElNr8VZOjQ1. 中国の国家戦略「第15次五カ年計画」と3つの任務中国では現在、2026年から始まる次期国家計画「第15次五カ年計画」の策定準備が進んでいます。この計画の中で、国有企業の監督官庁である国務院国有資産監督管理委員会(国資委)は、中央企業のブランド分野に関する主要任務として以下の3点を掲げました。ブランド建設の強化(プロセス管理の徹底)ブランド価値の向上(AI等を活用した評価とKPI化)卓越したブランドの構築(世界一流企業の輩出)これは、中国企業が「安価な製品を作る工場」から「世界的な価値を持つブランド」へと転換することを、国策として強力に推進していることを意味します。では、これをどのように実現しようとしているのでしょうか。なお、ブランド価値は単なるスローガンではなく、国資委はAIを活用した「ブランド価値評価モデル」を構築し、中央企業トップの業績評価(KPI)にも組み込もうとしています。つまり中国では、ブランドとその保護は「経営陣の人事にも直結する指標」になりつつあるのです。2. 目標実現のための「4つの強化」国資委は、上記の目標を達成するための具体的な手段として、中央企業に対し以下の「4つの力」を強化するよう求めています。牽引力(ブランドと事業の融合):ファーウェイが「ブランドは戦略に源を発し、戦略を牽引する」としているように、ブランド戦略を経営戦略の中核に据えること。生命力(イノベーション): AIや新技術(中国政府が提唱する「新質生産力」)をブランド価値の源泉とすること。統制力(ガバナンス):M&Aや再編で肥大化したブランド体系を整理し、ガバナンスを効かせること。影響力(国際展開):グローバル市場でのプレゼンスを高め、世界的な資源配分におけるブランドの役割を発揮すること。国際展開を進める中で浮上している課題のひとつが、『海外におけるブランド資産侵害』であり、その中でもデジタル領域として特にドメイン保護が重要視されています。3. 国際展開の壁と「ドメイン保護」の必要性中国企業が「影響力」を強めて海外へ進出する際、直面しているのが「ブランド資産の流出・侵害」というリスクです。これまでも物理的な「商標」のトラブルは多発していました。 例えば、中国の高級白酒メーカー「五糧液(Wuliangye)」が韓国で、老舗食品ブランド「王致和(Wangzhihe)」や家電大手の「海信(ハイセンス)」がドイツで、さらに小鵬(Xpeng)などの新興EVメーカーが東南アジアで、それぞれ現地の第三者に商標を先に登録されてしまう「冒認出願」の被害に遭っています。しかし現在、このリスクは物理空間からデジタル空間へと拡大しています。 AI技術の進化により、精巧な偽サイトが容易に作成されるようになりました。例えば、アマゾンの偽サイト(amazon-india.online)のようなドメインが悪用されるケースがあり、グローバル展開を進める中国の大手企業も同様のリスクに晒されています。こうした背景から、今回のレポートでは「国際的な影響力を持つためには、商標だけでなく、グローバルなドメイン防衛計画が不可欠である」という文脈で、ドメイン保護の重要性が強調されているのです。4. 国家的戦略を実行する「戦術」としての2026年新gTLD申請国資委が求めた「グローバルな資産保護」という方針。これを具体的に実現する手段として、専門家や業界内で喫緊の課題として浮上しているのが、2026年の「新gTLD申請」への参加です。インターネット上のドメイン末尾(「.com」や「.jp」など)にあたる部分を、企業や団体が自由に申請・保有できる制度(新gTLD:Generic Top Level Domain)の第2回申請受付が、2026年4月に開放されます。レポートでは、政府の方針を遂行するためには、単なる商標登録といった防御策にとどまらず、「国際化を目指す中央企業は、この機会に注目し、戦略的に投資すべきである」と分析しています。この分野ですでに先行しているのが、金融・建設・資源開発などを手掛ける中国最大級の国有コングロマリット(複合企業)である「中信集団(CITICグループ)」です。 同社はすでに「.citic」や「.中信」といった独自のトップレベルドメインを運用・管理しています。これは言わば、賃貸オフィス(.comなどの共有ドメイン)ではなく、デジタル空間上に「自社ビル」や「専用道路」を建設するようなものです。専門家は、他の中央企業もCITICに続き、デジタル空間における主権を確立すべきだと説いています。5. 日本企業へのインパクト:デジタル空間における領土争い2026年4月の新gTLD申請に向けた動きは、まさにデジタル空間における領土争いとも言えます。中国の巨大国有企業が、国策として「ブランド資産保護」の名の下にドメイン取得へ動き出した場合、日本企業にはどのような影響があるでしょうか。第一に、人気のキーワードや業界用語を含むドメインが、中国資本によって押さえられる可能性があります。 第二に、自社のブランド名や関連語句が、意図せず他国の管理下に置かれるリスクもゼロではありません。「第15次五カ年計画」という国家戦略と連動して動く中国企業のブランド防衛。それは、単なるロゴや商標の話を超え、インターネットのインフラ部分に関わる戦略的な動きです。2026年の開放に向け、日本企業も「自社のデジタル資産をどう守り、どう活用するか」という視点で、ドメイン戦略を再考する時期に来ていると言えるでしょう。6.日本企業が今から準備しておきたい3つのアクション自社ブランドの「ドメイン資産棚卸し」 ― 既存gTLD+ccTLD+悪用されやすい類似ドメインの洗い出し新gTLD取得の可能性検討 ― ブランドTLDが本当に必要か/どのブランドで取るか/社内の関係部門(IT・マーケ・法務)との合意形成中国企業の動向モニタリング ― 自社業界の中国大手がどのようなドメイン戦略を取り始めているかを継続的にチェックGMOブランドセキュリティでは、新gTLDの取得検討から申請支援、運用設計(DNS/証明書/ポリシー)、社内体制づくりまで一気通貫でサポートしています。「自社にとって本当に必要か?」の整理段階からご相談いただけます。お気軽にお問い合わせください。GMO「.貴社名」申請・運用支援サービス(ブランドTLD) ご相談・お問合せ【出典・参考資料】 本記事は、以下の中国・正略諮詢(Adfaith Consulting)ブランド研究院による分析記事および公開情報を基に、日本の読者向けに要約・編集したものです。元記事タイトル:从“国字号”品牌论坛看中央企业品牌工作:中央企业需要建立全球化的品牌资产保护体系(「国家級」ブランドフォーラムから見る中央企業のブランド業務:中央企業はグローバルなブランド資産保護体系の構築が必要)https://mp.weixin.qq.com/s/IufERP5FCaXqElNr8VZOjQ分析機関:正略諮詢(Adfaith Consulting)ブランド研究院関連イベント:2025中国ブランドフォーラム(2025年10月29日)、第8回中国企業フォーラム(2025年11月3日-4日) お問い合わせこちら