中国商標をめぐる近年の傾向について、第1回・第2回の2回に分けてお届けします。第1回の今回は、商品の品質や効能を連想させる語を組み込んだ「心機商標」への取締りが本格化している中国の動きと、2027年1月施行の改正商標法のポイントを、中国国家知識産権局(CNIPA)の公表情報や康信国際特許事務所から提供を受けた情報をもとに整理します。第2回では、審査データと、日本企業が押さえておきたい実務上のポイントを解説します。この記事の要点中国では、商品の品質・効能・産地について誤認させる商標(心機商標)の取締りが強化されています。2023年以降の拒絶は累計127.3万件(2026年4月23日時点)、職権による無効決定の発効は累計3,575件(2026年10月21日時点)2027年1月1日施行の改正商標法で、出願・使用・通報の3つの面の規定が整備されました。使用面では是正命令・罰金・登録取消が定められています日本企業も、出願前に、品質・効能・製法を連想させる要素が含まれていないか確認することが重要です1. 心機商標とは心機商標(心机商标)とは、商品の品質や効能を連想させる語を巧みに組み込み、消費者に「この商品はそういうものだ」と思わせる商標を指す中国の用語です。「心機」は「下心」や「計算高さ」を意味します。法令上は、改正商標法第15条(現行法の第10条第1項第7号に相当)が定める「欺瞞性を帯び、公衆に商品の品質、工法、原料等の特徴または産地について誤認を生じさせやすいもの」にあたります。「誤認を招く商標」「欺瞞的商標」も同じ意味で、「心機商標」は一般の人にも理解しやすいよう使われている表現です。取締り強化の背景取締りが強まった背景には、2025年の「千禾0」をめぐる騒動と、CNIPAの通知があります。2025年3月:醤油「千禾0」をめぐる騒動で、「0」が商標の一部にすぎず「無添加」を意味するものではないことが消費者の注目を集めたと報じられました2025年11月:CNIPAが商標の使用管理を強化する通知を出し、「零添加」「100%」などを含む標章(商標として使われる文字・図形などの印。ここでは未登録商標)で商品の実際の属性と異なる印象を与える行為や、登録商標を商品名・広告・包装と組み合わせて品質を誤認させる行為を、取締りの対象に挙げました2026年1月23日:CNIPAの副局長が、国務院新聞弁公室(国務院の広報機関)の記者会見で、心機商標への取締りを強化する方針を表明しましたこの件を含め、心機商標が中国で注目を集めています。拒絶は2023年以降で累計127.3万件、職権による無効決定の発効も3,575件CNIPAが2023年以降に拒絶した心機商標は、2026年4月23日時点で累計127.3万件にのぼります。さらに、職権(当事者の請求を待たず、機関が自ら手続を行うこと)により無効を宣告された心機商標のうち、決定が発効したものは、2026年10月21日時点で累計3,575件です。無効宣告に不服がある権利者は不服審判を請求でき、請求がなければ決定が発効し、公示されます(CNIPA公表、件数は随時更新)。いったん登録されても安心はできません。職権で無効を宣告された例には、次のようなものがあります(「問題視されたと見られる点」は推定であり、CNIPAの公式な理由ではありません)。商標問題視された語問題視されたと見られる点雅思美白美白商品の機能を表示高露洁劲白劲白歯磨きの機能・効果を表示三禾手打面手打手作りを表示手打功夫手打手作りを表示一次元土猪肉土猪品質の高い豚肉を表示百鸟补品汇补品サプリメントを表示出典:康信国際特許事務所「中国商標審査動向」(2026年9月)。「問題視されたと見られる点」は、同資料の「疑わしい訴求ポイント(推定)」をもとにしています。日本で使われる身近な表現も、中国では問題になりうる日本で商品名によく使われる次のような表現が、中国では問題になる可能性があります。CNIPAの2025年11月の通知も、「零添加」「手打」「有機」などを含む標章を例示しています(実際の判断は商品や使い方により異なります)。美白:商品の機能・効果を示す表現と受け取られるおそれ手打:手作りの製法を示す表現と受け取られるおそれ無添加(中国語では「零添加」):品質や成分に関する表現と受け取られる可能性有機:原料や品質に関する表現と受け取られる可能性日本の商標をそのまま中国に出願する前に、品質・効能・製法を連想させる要素が含まれていないか確認が必要です。2. 改正商標法で強まる取締り2027年1月1日に施行される改正商標法(以下、改正法。2026年6月26日可決)では、誤認を招く商標(心機商標)について、出願・使用・通報の3つの面で規定が整備されました。出願段階:悪意の出願には警告と10万元以下の罰金(第54条)使用段階:是正命令(期間を定めて改めさせる命令)と罰金、是正しなければ登録取消(第56条)通報:いかなる組織・個人も通報が可能(第70条)出願段階:悪意の出願には警告と10万元以下の罰金品質・工法・原料などの特徴や産地について公衆に誤認を生じさせやすい標章は、商標として使用できません(第15条)。これを知りながら出願するなどの悪意の出願行為があり、悪影響を及ぼした場合、商標法執行担当部門(市場監督管理部門など)は警告を与え、10万元以下の罰金を科すことができます(第54条)。使用段階:是正命令、罰金、そして登録取消公衆を誤認させる方式で登録商標を使用した場合の措置は、次のとおりです(第56条)。違法経営額とは、違法行為に関わった商品・サービスの取扱額を指し、違法行為で得た利益の額とは異なります。状況措置違法経営額が5万元以上期間を定めた是正命令のうえ、違法経営額の5倍以下の罰金違法経営額がない、または5万元未満期間を定めた是正命令のうえ、25万元以下の罰金期間内に是正しない国務院商標管理部門(CNIPA)が当該登録商標を取り消す登録できたとしても、使い方によっては罰金に加え、登録商標そのものを失うことになります。通報:組織・個人はだれでも通報できる改正法では、公衆を誤認させる方式による登録商標の使用や、登録商標専用権の侵害などの違法行為について、いかなる組織・個人も、商標管理業務担当部門および商標法執行担当部門に苦情の申立てや通報を行う権利を有すると定められました(第70条)。第三者からの通報が、調査の端緒になりえます。競合他社や消費者からの通報をきっかけに、商品パッケージや広告表示が調査の対象となる可能性があるため、商標そのものだけでなく、実際の商品表示・販促表現を点検しておくことが重要になります。※本章の条番号と条文の和訳は、康信国際特許事務所の資料(2026年9月)によります。「商標法執行担当部門」は、商標の行政取締りを担う市場監督管理部門、知識産権管理部門、総合執法部門などを指し、地域により異なります。「商標管理業務担当部門」は、商標の登録・管理を担う部門を指します。改正の全体像は、当社の記事「【中国商標】中国商標法が改正 2027年1月施行 企業が知るべき主な変更点」で解説しています。3. まとめ中国では、商品の品質等について誤認させる心機商標への取締りが強化され、拒絶は累計127.3万件、職権による無効決定の発効は累計3,575件に達しています2027年1月1日施行の改正法では、誤認を招く商標について、出願には罰金、使用には是正命令・罰金・登録取消、第三者には通報権が定められました日本企業も、「美白」「手打」「無添加」「有機」のような表現を含む商標を出願する前に、品質・効能・製法を連想させる要素の確認が必要です商標そのものだけでなく、実際の商品表示・販促表現の点検も重要になります次回(第2回)は、審査データと実務上のポイントを解説します。※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の案件については専門家にご相談ください。出典資料提供:康信国際特許事務所「中国商標審査動向」(2026年9月)職権による無効決定(発効分)の累計件数:中国国家知識産権局(CNIPA)商標局「心机商标」関連ページ(2026年10月21日時点、随時更新) https://sbj.cnipa.gov.cn/xinji-case(閲覧日:2026年10月21日)2023年以降の拒絶件数:CNIPA商標局「国家知识产权局已驳回“心机商标”申请127.3万件」(新華網配信、2026年4月23日、国務院新聞弁公室記者会見) https://sbj.cnipa.gov.cn/zcwjhmtbd/2026/0829/27002.html(閲覧日:2026年10月21日)改正商標法:CNIPA「强化商标管理和保护 商标法完成修订」(新華網配信、2026年6月26日、第14期全国人民代表大会常務委員会第23回会議で可決) https://www.cnipa.gov.cn/art/2026/6/26/art_3688_206929.html(閲覧日:2026年10月23日)取締り強化の背景:新華網「国家知识产权局:将加大力度整治“心机商标”」(2026年1月23日、国務院新聞弁公室記者会見) https://app.xinhuanet.com/news/article.html?articleId=e59509290fb5e32cb6bc15e93431ace2(閲覧日:2026年10月23日)取締り強化の背景:CNIPA「国家知识产权局办公室关于加强商标使用管理的通知」(国知办函保字〔2025〕916号、2025年11月21日) https://www.cnipa.gov.cn/art/2025/11/21/art_75_202674.html(閲覧日:2026年10月23日)「千禾0」をめぐる経緯:煙台市政府サイト掲載「谁来定义真正的“好”?——“心机商标”治理背后的品质表达」 https://nongye.yantai.gov.cn/col/col20524/art/2026/art_cfe4fe4aaeff45698b5bbde7478238fa.html(閲覧日:2026年10月23日)心機商標の例として「千禾0」に言及:上海証券報「国家知识产权局:加力打击“心机商标” 已驳回此类申请127.3万件 对3351件此类商标宣告无效」(2026年4月24日) https://paper.cnstock.com/html/2026-04/24/content_2204896.htm(閲覧日:2026年10月23日)商標法執行担当部門の定義:国家市場監督管理総局・国家知識産権局「商标行政执法证据规定」(商標行政執法証拠規定)第22条(2025年1月1日施行) https://www.samr.gov.cn/zw/zfxxgk/fdzdgknr/zfjcs/art/2025/art_307c8233e0e3432a9c7d1c73a68968b5.html(閲覧日:2026年10月23日) お問い合わせこちら