サウジアラビアは2026年7月8日、世界知的所有権機関(WIPO)にマドリッド協定議定書の加盟書を寄託し、2026年10月8日に発効します。これにより、マドリッド制度を通じて商標を保護できる対象国は133か国に拡大し、1つの国際出願にサウジアラビアを含めて指定できるようになります。特に複数国へ同時に出願する場合は、費用・管理の両面で有力な選択肢となります。一方で、同国では暫定拒絶期間の18か月への延長や個別手数料の徴収が宣言されており、コストとスケジュール管理には注意が必要です。本稿では、加盟の概要から宣言事項、実務上の留意点までを整理します。1. 加盟の概要サウジアラビアは2026年7月8日、世界知的所有権機関(WIPO)に対しマドリッド協定議定書(商標の国際登録に関する国際的な枠組み)の加盟書を寄託しました。同議定書は2026年10月8日にサウジアラビア国内で発効します。この発効により、マドリッド制度を通じた国際商標登録の対象国・地域は133か国となります(WIPO公式ニュースによる実効カバー数。条約上の締約者(Contracting Parties=条約に加盟している国・政府間機関の数え方)数としては117で、両者は別の指標です)。2. 加盟に伴う宣言事項サウジアラビアは加盟書の寄託にあわせ、WIPOに対し以下の宣言・通知を行いました(WIPO Information Notice No. 35/2026、2026年7月23日付)。暫定拒絶通知の期間を、原則の12か月から18か月に延長(マドリッド協定議定書第5条(2)(b)・(c)に基づく宣言)。異議申立に基づく暫定拒絶については、18か月経過後の通知も認められます。国際出願・事後指定(既存の国際登録に後から指定国を追加する手続)・更新でサウジアラビアを指定する場合、補助手数料・追加手数料(個別手数料を選択しない国に適用される標準的な手数料体系)からの配分ではなく個別手数料(individual fee)を徴収(同第8条(7)(a)に基づく宣言)。金額は別途のInformation Noticeで公表される予定です。サウジアラビア国内法に分割・併合の制度がないため、国際登録の分割(division)・分割後の併合(merger)はいずれも受け付けません(規則27の2(6)・27の3(2)(b)に基づく通知)。3. マドリッド制度とはマドリッド制度は、1つの国際出願・1つの言語・1通貨での手数料納付により、複数の指定国で商標保護を得られる仕組みです。サウジアラビアの加盟により、同国を指定国に含めた国際登録出願が可能になり、現地代理人を介した個別の国内出願に代わる選択肢が加わります。4. GCCにおける位置づけサウジアラビアは、湾岸協力会議(GCC、6か国で構成)で5か国目のマドリッド制度加盟国です。加盟済み:バーレーン/オマーン/カタール/アラブ首長国連邦/サウジアラビア未加盟:クウェートのみGCC随一の経済規模を持つ同国の加盟は、地域全体の商標保護環境における大きな節目といえます。5. 実務上の留意点発効日(2026年10月8日)以降は、新規の国際出願でサウジアラビアを指定できるほか、既存の国際登録についても事後指定により同国を追加できます。サウジアラビアはマドリッド協定議定書第14条(5)の宣言を行っていないため、発効日より前に成立した国際登録からでも事後指定が可能です。個別手数料が適用されるため、他の標準手数料国とは別立てで指定コストを試算する必要があります(具体的な金額は別途公表予定)。暫定拒絶の通知は原則18か月以内に届きますが、異議申立に基づく暫定拒絶はそれ以降に通知される場合もあるため、保護認容までの期限管理は通常より長めに見込んでおく必要があります。国際登録を既に分割している場合、サウジアラビアを指定した状態での再併合はできない点に留意が必要です。国際登録移行後も、拒絶理由通知への対応など現地手続には現地代理人の関与が必要となる場面が想定されるため、既存の代理人体制の維持を検討しておくことが望まれます。6. まとめサウジアラビアの加盟により、2026年10月8日以降は、1つの国際出願に同国を含めて指定できるようになります。複数国へ同時に出願する場合、マドリッド制度は各国への直接出願に比べ、費用面でも、更新・名義変更などを一元管理できる管理面でも、多くのケースでメリットがあります。サウジアラビアでは暫定拒絶期間18か月・個別手数料といった条件がありますが、こうした点を織り込んだうえで、同国を含む国際出願を検討する価値は大きいと考えます。※出典:世界知的所有権機関(WIPO)「Saudi Arabia Joins WIPO's Madrid System」WIPO公式サイト、https://www.wipo.int/en/web/madrid-system/w/news/2026/saudi-arabia-joins-wipos-madrid-system(2026年8月3日閲覧)/WIPO「Information Notice No. 35/2026 — Accession to the Madrid Protocol: Saudi Arabia」(2026年7月23日付、https://www.wipo.int/documents/d/madrid-system/information-notices-en-2026-madrid_2026_35_e.pdf-1)。本稿の内容は2026年8月時点の情報であり、最新の運用は現地代理人または専門家へのご確認をお勧めします。 お問い合わせこちら