中国では、先行類似商標への対抗策として不使用取消審判請求が活用される場面が多く、請求件数は継続的に増えています。自社の登録商標に対して第三者から不使用取消審判を請求されるケースも珍しくなく、十分な使用証拠を提出できなければ権利を失うリスクが高いため、平時からの証拠管理が不可欠です。本コラムでは、第三者から不使用取消審判を請求された際に初動で確認すべき点と使用証拠の集め方を実務目線で解説します。【補足】中国商標法第49条は、登録商標が正当な理由なく3年以上継続して使用されていない場合、いかなる団体・個人も取消審判請求できると定めています。通知を受けた権利者は、商標法実施条例第66条に基づき、受領から2ヶ月以内に使用証拠または不使用の正当理由を提出する必要があります。2025年5月のガイドライン改訂により、不使用を疎明する事前調査・予備的証拠の提出を請求人側に求める運用が強化され、悪意による不使用取消審判請求は不受理とする方針が明確化されました。一方で、出願商標を権利化するために、類似する先登録商標に対する正当な不使用取消審判請求は今後も増加が見込まれ、「使用証拠を即座に提出できる状態」を平時から維持する重要性は一段と高まっています。1. 使用証拠で示すべき5つの要件使用証拠は次の5つの要件を満たし、かつ対象期間(「取消審判請求日」から逆算した過去3年間)の中国大陸での使用を示すものでなければなりません(中国商標審査審理指南、2021年11月公布、2022年1月施行)。項目要件対象商標登録商標と同一、または顕著な特徴が一致する標章の使用指定商品・役務取消対象の商品・役務についての使用使用者権利者本人、許諾者、または権利者の管理下にある者使用日取消審判請求日より前の3年間使用地域中国大陸での使用(香港・マカオ・台湾は別制度)対象期間の起算点は「通知日」ではなく「取消審判請求日」です。審判請求の通知を受けた後に慌てて使用を開始しても、対象期間外となり、有効な反論にはなりません。2. 単独資料では足りない — 一連の使用証拠の構築商品写真、契約書、発票(中国の税務上の公式インボイス)など、個別資料は単独では商業的使用を十分に示せません。複数の資料を組み合わせ、商標表示・取引・決済・配送までの商業活動の流れを立体的に示す「一連の使用証拠(证据链)」を準備することが成功の鍵です。シナリオ別の典型的な証拠の組み合わせは以下の通りです。商品を現地にて販売している場合:取消対象商標が付された商品の写真+当該商品の販売契約書+発票+送金記録+物流記録商品をECサイトにて販売している場合:取消対象商標が付された商品のECサイトのキャプチャ+当該商品の注文履歴+決済記録+発票+配送記録BtoBで商品を販売している場合:取消対象商標が付された商品の資料+中国企業との販売契約書・注文書+発票・送金記録+納品書・物流記録店舗・拠点でサービスを提供している場合:取消対象商標が表示された店舗看板・店内写真+店舗賃貸借契約書・営業許可資料+発票・領収書+予約記録・来店記録・サービス提供記録一つの証拠のみで、上述の5つのポイントを証明できるケースは少ないため、原則として複数の証拠の組み合わせが必要になります。3. OEM製造と香港法人ルートの場合中国大陸での直接販売が乏しい案件でも、中国大陸におけるOEM製造を立証することで不使用取消を免れるケースがあります。ただし、香港法人を窓口とするルートでは、中国大陸での製造を立証する追加書類が必須です。商標使用授権書:日本国準拠法の使用許諾契約のみでは中国当局で不十分な場合があるため、中国語で記載され、署名捺印済みの現地形式の書類を別途準備する必要があります。一貫した使用証拠:委託製造契約書、発注書、商業送り状(インボイス)、船荷証券(B/L=Bill of Lading)または航空運送状(AWB=Air Waybill)、輸出通関証明、生産記録、取消対象の商標が付された製品の写真を時系列で用意します。香港法人ルート:通関関連などの書類上の製造業者が香港法人の場合、中国大陸で製造されているか否か疑問視されやすい傾向にあります。原産地証明書や、香港法人と中国大陸工場間の委託加工契約・発票、中国大陸工場の生産記録を追加で確保します。【当社の見解】複数のOEMルートが存在する場合、当社では「製造元が中国大陸の企業である」ルートを軸に答弁書を構成することを推奨しています。2ヶ月という短い応答期限の中で、立証可能性の高いルートを早期に見極めることが重要です。まとめ中国商標の権利維持は、不使用取消審判請求を受けた後の対応ではなく、平時からの「証拠管理」の質で決まります。請求から2ヶ月という限られた期限内に、5つの要件を満たす証拠群を提示し、かつ最適なOEMルートを即座に特定できるよう、日頃からの体制整備を行うことこそが、中国での商標権を確実に守る最善の防衛策です。中国商標の権利維持に関してお困りのことがあれば、ぜひ当社までご相談ください。出典・参考情報中华人民共和国商标法第49条/同法实施条例第66条(国家知识产权局) 国家知识产权局「商标审查审理指南」(2021年11月公布、2022年1月施行)国家知识产权局「商标局修订完善撤销连续三年不使用注册商标申请指南」(2025年5月)新興国等知財情報データバンク(INPIT)「中国における『商標の使用』の定義とその証拠」※ 本コラムは一般的な情報提供を目的としたものであり、法的アドバイスを構成するものではありません。個別案件は当社にお問い合わせください。 お問い合わせこちら