
東レ株式会社様
- .貴社名(ブランドTLD)
成長を続けるブランドTLDの価値。
東レに欠かせない存在となった「.toray」という無形資産。

1926年に創業し、日本を代表する大手総合化学メーカーとなった東レ株式会社。同社は繊維・樹脂・ケミカル・フィルム・炭素繊維複合材料などの幅広い分野で、高付加価値な製品や素材を開発・製造・販売しています。
国内外に300社以上のグループ会社を持つ東レは、2012年にICANNの新gTLDプログラム(ファーストラウンド)にて、ブランドTLD「.toray」を取得しました。
当初は「費用が高い」「ICANN(※1)とはどんな団体なのか」といった懐疑的な声も上がりましたが、現在ではブランドTLD(※2)を企業活動に不可欠な「無形資産」へと成長させています。
なぜ東レはブランドTLDを取得したのか。取得後にブランドTLDにどのようなメリットを感じているのか。申請当時からプロジェクトの推進役を担ってきた知的財産部の小堀謙治氏に、取得までの道のり、具体的な活用法「.toray」に感じる価値について伺いました。
(インタビュアー:GMOブランドセキュリティ株式会社 寺地 裕樹)
- 目次
認知度ゼロから始まった説得の決め手は「ブランド保護」
――まず小堀さんの現在の業務内容と、ブランドTLDの運用における役割について教えてください。
小堀氏:
私は知的財産部に所属しており、主に商標管理業務の統括やグローバルでのドメインネームの管理を担当しています。また、東レグループ全体のブランディングに関する取り組みについては経営企画やコミュニケーション関連の部門、デジタルソリューション部門などと連携したプロジェクトにも参画する機会が多くありましたが、そこでは、ブランドの重要な要素である「商標」の法的な視点からの意見発信を役割として担っていました。
ブランドTLDについては、個別のドメインネームの登録、更新管理のほか、ブランドTLDによるドメインの運用・利用に関連したガバナンス強化の側面で社内調整業務も担当しています。 ドメイン取得の申請受付や関係部署への意見照会と集約、そして役員決裁を経てドメインを登録するといった一連のフローすべてに関わっています。

小堀 謙治氏(知的財産部)
――非常に幅広い業務を担当されているのですね。そもそも、東レがブランドTLDを取得した背景には、どのようなきっかけがあったのでしょうか?
小堀氏:
2010年頃、GMOブランドセキュリティから新gTLD(※3)についての説明を受けたのが最初のきっかけでした。その時、当社はちょうどウェブサイト全体の運営体制が見直されている時期であり、今後のサイト運営に関わる大きな情報だと捉え、すぐに関係部署に共有しました。
当時は、ウェブサイトを運用している部署と「グローバルな広報宣伝やマーケティングツールとして『.toray』を使えるように準備しよう」と意見が一致し、協議が進みました。しかし、マーケティングツールとしてだけではあまりにも費用が高額であり、「費用対効果はどうなのか」という意見も出てきました。
――費用対効果は非常に大きな議論テーマですね。その状況をどのように打開し、社内合意に至られましたか?
小堀氏:
最終的な判断の決め手となったのは「ブランド保護」でした。もしもブランドTLDの申請を見送れば、他社に類似したブランドTLDを取得されてしまうかもしれません。実際に悪意のない、当社の「TORAY」に文字として似ているブランドというものは複数存在していましたし、「today」のように一般的なワードで類似する文字が取得されてしまうことで当社が申請できなくなるリスクも想定していました。また検討当時は、ドメインのタイポスクワッティング(URLの入力ミスやスペルミスを悪用したドメインの不正占拠の一種)による不正メールも発生し、危機感も高まっていたところでしたので、ブランド毀損や機会損失への対策という点で、ブランドTLDの取得の必要性が高まった状況にありました。
さらに、今回ブランドTLDの取得を見送った場合、次にいつ申請できるかも分からないという情報もありましたので、「やるなら今しかない」という機運が高まってきたことも議論の方向性を決定づけました。
――具体的な危機感をお持ちだったのですね。とはいえ、当時は新gTLDの認知度は非常に低く、社内への説明も、苦労されたのではないでしょうか?
小堀氏:
本当に大変でした。役員を含め、社内ではほぼ全員が新gTLDのことを知りませんでした。gTLDという用語も言いづらく、自分も含め「gTDL」とか「gLTD」などと誤記したり、社内で話すときもかみまくっていました(笑)
ドメインを管理するICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)という団体の存在を知る社員も、ほとんどいませんでした。「怪しい団体ではないのか」「こんなにお金を払って騙されていないか」といった意見もありました。
そこで、まずは新gTLDという用語やブランドTLDの仕組み、ICANNについて理解してもらうところから始めました。この時、GMOブランドセキュリティさんが新gTLD申請を検討する企業向けの説明会を開催したり、この取り組みの概要をまとめた資料を作成してくれましたよね。こうしたサポートは、社内の合意形成にも大いに役立ちました。
これらを活用し、宣伝室や広報室、情報システム部門、マーケティング企画室、そして知財部という主要な部署のメンバーに何度か説明した結果、重要性や必要性について共有することができました。最終的には、この5部署が中心となってワーキンググループを組成し、プロジェクトを進めることになりました。
検討を開始したのが2010年8月で、申請を決定したのが11月。約3ヶ月間での意思決定は今では短いと感じますが、その間ずっとブランドTLDのプロジェクトを優先して対応した覚えがあり、当時は非常に長く感じました。
「.toray」をグループ全体の資産として幅広く活用
――無事に「.toray」を取得した後、どのようにして社内での利用を広げていかれたのですか?
小堀氏:
まずは知財に関する社内研修資料に、新ドメインに関するコンテンツを追加しました。今後は「.toray」が当社のメインのドメインとなること、そのメリット・デメリットなどを説明し、社員一人ひとりへの浸透を図りました。実際のブランドTLDを利用したドメインの登録事例ができてからは、役員会での報告も行い、経営層への理解も深めていきました。
――研修や報告会などを通じて、各部署から「使いたい」という声はスムーズに上がってきたのでしょうか?

寺地 裕樹(GMOブランドセキュリティ 営業・マーケティング事業本部)
小堀氏:
個別の担当者から直接相談が来ることは少なかったのですが、プロジェクトを推進した5部署が起点となり、活用の輪が少しずつ広がっていったという印象です。特に情報システム部門がプロジェクトに関わっていたことで、同時進行で進めていたメールアドレスのグループ内の統合計画と「.toray」の活用がうまく連携できました。
――なるほどですね。メールアドレスも含め、具体的な活用事例について、もう少し詳しく聞かせてください。
小堀氏:
東レグループでは、主に3領域で「.toray」を活用しています。
まずはウェブサイトです。当社はBtoBの素材メーカーですが、個別の事業や素材・製品を訴求するサイトが比較的多数存在します。ブランドTLDを運用できるようになってからは、新規に個別の事業サイトやブランドサイトを立ち上げる場合は「.toray」を使用することになっています。
事業や素材の一般名称を用いるサイトは、従来の「.com」などではすでに他者に登録されて取得が困難という場合が多いのですが、ブランドTLDなら自由に設定可能です。「films」、「plastics」、「circular」など、実際に「.toray」で登録してサイトを公開していますが、この自由度は、非常に大きなメリットだと感じています。
先ほど話したメールについては、グループ全体でメールアドレスを「mail.toray」に統一しました。この背景には、グループ会社間の異動があっても使い続けられる「永久不滅のメールアドレス」を実現するために、現在使用していない新しいドメインを設定したいという情報システム部門の構想がありました。その構想を、ブランドTLDで実現できたのです。
その他、社内システムにも「.toray」は活躍しています。これまでは「toray.co.jp」を規定ドメインとして、サブドメインにシステム的に区別できればよいという発想で英数字数文字を付与して運用していました。しかしこの運用ルールは、利用者にとってURLとシステム内容が結びつかず、分かりにくい状態でした。
現在は、例えば社内のウェブアプリの場合「webapp.toray」というドメインをキーにしてサブドメインにシステム名を付けるといった対応も進めています。他社のウェブサービスに独自ドメインを設定できる場合も、分かりやすくアクセスしやすいURLにすることも試みています(note.torayなど)。

――社内外のあらゆる場面でブランドTLDを活用されているのですね。グループ会社でも「.toray」は利用できるのでしょうか?
小堀氏:
はい。「.toray」は、東レグループであることを証明するオフィシャルな識別標識と位置づけているため、一定の基準を満たしたグループ会社は利用可能という運用にしています。
例えば、これまで当社グループ内で、「殖産会社」と称する地域密着型の工場に付随した事業会社は「滋賀殖産」、「三島殖産」というように、主に工場所在地に合わせた名称となっていました。この名称が、「東レコムズ千葉」「東レコムズ滋賀」という形で統一されたのをきっかけに、「coms.toray」というドメインを取得し、各社にディレクトリを割り振る形でURLを設定してウェブサイトを統合しました。コーポレートブランドを軸としたグループとしての一体感を醸成する上でも、「.toray」は重要な役割を担っています。
大きなコストメリットとセキュリティ上の安心を実感
――導入から10年以上が経過しましたが、当初の目的であったブランド保護やマーケティング活用に対して、ブランドTLDは十分なコストパフォーマンスを発揮しているでしょうか?
小堀氏:
もしブランドTLDがなかった場合のことを考えると、相当なコストメリットが出ていると思います。
まず新しいブランドやサービスを立ち上げるたび、「.com」や「.jp」などを防御的に取得する必要がなくなりました。一つのドメインを取得しようとすると、類似したドメインを第三者に取られてしまうといういたちごっこのような状況に陥りがちです。ブランドTLDのおかげで、そうした心配が一切なくなりました。
結果的に、ドメインの登録・更新費用を低く抑えられ、かつ無駄なドメインを取得しなくて済みます。このメリットは、年を追うごとに大きくなっていると感じます。
セキュリティ面についても、なりすましメールやフィッシングサイトへの対策が急務となっている昨今の状況に対して、「.toray」は非常に強力な武器となっています。
私たちが管理しているドメイン以外からのメールは偽物だと判断できて、ウェブサイトのURLが「.toray」であれば間違いなく公式サイトだと証明できます。SNSなどで情報を発信する際も、リンク先が「.toray」であればユーザーは安心してクリックできます。
ブランドTLDはデジタルマーケティングで必須の武器となる
――改めて、ブランドTLDを取得してよかったと感じておられますか?
小堀氏:
間違いなく「よかった」と断言できます。会社として非常に良い選択をしたと思いますし、個人的にもそのプロセスに関われたことを嬉しく思っています。
――今後、ブランドTLDの活用についてどのような可能性を考えておられていますか?
小堀氏:
今後、デジタルマーケティングにおいて、ブランドTLDは必須の武器となる可能性を秘めていると考えています。ブランドTLDとブランディングは、非常に親和性が高いです。近年、なりすましやフィッシングサイトによる被害が増えている中、ブランドTLDを持っていること自体が、大きなアドバンテージになると思います。
例えば、最近多くの場面で目にするQRコードも、コードだけが提示されているとアクセス先のウェブサイトが確認できないため、不安に感じることもあると思います。実際にそれを悪用した詐欺も増えていると聞きます。
QRコードの下に「.toray」を用いたわかりやすいURLを併記し、実際にコードを読み込んだ際に表示されるURLが一致すれば、ユーザーに安心感を与えることができるかもしれません。そういう点でも、任意にわかりやすいURLを設定できるブランドTLDを目にして記憶にも残るような形で積極的に見せていくように活用していきたいですね。
――Googleも自社サービスへのリンクに「.google」を活用し始めています。自社が責任を持って安全なリンク先を提示するという姿勢は、ますます重要になりますね。
小堀氏:
そうですね。ウェブサイトやSNSでの情報発信では積極的に「.toray」を用いることで、「これは東レの公式情報だ」という安心を、ステークホルダーの皆様にお届けしていきたいと思います。

- ※1 ICANN:ICANN(アイキャン)は、「Internet Corporation for Assigned Names and Numbers」の略称で、インターネットのドメイン名システム(DNS)やIPアドレスの管理を行う米国の非営利団体。
- ※2 ブランドTLD:ブランドTLD(ブランドトップレベルドメイン)とは、企業や組織が自社のブランド名そのものをトップレベルドメイン(TLD)として使用できるもの。
- ※3 新gTLD:「gTLD」は「generic Top-Level Domain(ジェネリック・トップレベル・ドメイン)」の略。「新gTLD」は「シンジーティーエルディー」と読む。